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                                       photo by 與那原松美
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字幕監修をつとめた『TED テッド』の実例を交えて、「いかに観客に引っかかる意訳にするか」を語った町山さん。今回は、映画評論家としての町山さんにググッと焦点をあてた質問をしてみました。それは「映画の面白さとイデオロギーは別物なのか?」
かなり難しい線引きですが、さすが町山さん、快刀乱麻の答えをズバッと出してくださいました。いま話題の邦画大作やドキュメンタリー、さらには映画史に残る伝説のサイレント映画を例に出してたっぷり語ります!
 
聞き手は「シネマラボ突貫小僧」代表の平良竜次です。

 
「面白いけど、どう考えても間違っている映画」

Birth_of_a_Nation_theatrical_poster竜次:次は映画の見方についての続きで、かなり具体的な話になっちゃうんですが、『國民の創世』について町山さんがかなり深く書かれているのを拝見したんですが、あの作品には差別的な表現とか、イデオロギー的に偏っているところがかなりあるじゃないですか。

町山
:はい。
 
竜次:けど、映画としてものすごく面白いという。映画を見る上でいつも思うのが、作られた背景とか、込められているものとかはともかくとして、とにかく面白いものってあるじゃないですか。それに対してどう対峙していいのかなと。
 
町山:技術的な問題だと思うんですよね、やっぱり。
メル・ギブソンと グリフィスは映画を作る技術が非常に高いですが思想的には未熟な人たちなんですよ。政治思想的には非常に未熟的な人々なんで、ただ、映画を作る技術とは無 関係に存在するので、「面白いんだけど、どう考えても間違っている映画」ってのを作っちゃうんですよね。その場合に、それはハッキリと「面白いんだけど間 違っている」と言うしかないんですよね(笑)。
 
竜次:それは併記して書くしかないんですね。
 
町山:そう! それは両方書くしかないんですよ。日本の文学なんかでもいっぱいありますからね、そういうのは。それは面白いけど間違っているとしか言いようがないですね。面白いことは認めるけど間違っているよと。それしかないですよね。特に事実関係において。
 
竜次:そうですね。
 
町山:特に『國民の創世』って映画の問題性が大きかったのが、単に間違っているだけではなくて、完全に沈静化していてアメリカ国内に存在しなかったクークラックスクランKKKというものを復活させちゃったんですよ。それが一番大きかったです。それでものすごく政治的な影響力を与えて、特に1960年代にはクークラックス クランによる殺人事件まで起きていますから、それの引き金を引いたのはグリフィスなんで、それはハッキリ言って完全に影響を与えて、死人まで出ていますか ら、もう、それは罪ですよ。それまで、彼が『国民の創世』を作るまでKKKは存在しなかったですから。南北戦争の後、完全に違法化されて消えていたんです から!
 
竜次:消滅していたと。
 
町山: 消滅していたものを復活させたんですから。これは完全に犯罪なんですよ。これはまずいと思います。ただ、もう一つ、すごく難しいのはグリフィスはすごく反 省していたんですよ! すごく反省して、『国民の創世』以降の映画は人種差別とか民族差別というものを糾弾する内容になっていくんですよ。それは本人がす ごく悩んだところだと思います。
 
竜次:そういった流れがあるんですね。
 
町山:流れがあるんです。ただ、日本ではほとんど論じられていないんで、(だから自分が)論じたんですけれど。
 

「ハッキリ言ってケツ舐め野郎ですから!」
 
eien-no-zero竜次:最近の日本映画でいうと、あれですね、百田尚樹さん原作の『永遠の0』がありますが…。
 
町山:ああ、どうしようもないんじゃないですか。
 
竜次:ですが、映画自体はものすごくヒットしましたね。
 
町山:ああ、映画は酷いですけどね。
 
竜次:「こんなのがヒットしちゃってどうしよう」という感じですけど。
 
町山:まあ、ほんとにもうどうしようもないと思いますよ(笑)。作品としてもどうしようもないですけど、ただ一番の問題は、著者自身は意図的にやっていると思います。
 
竜次:というと。
 
町山:つまりその、特攻っていう明らかに間違った作戦。要するに戦術上、戦略上間違っていて、無駄に自国民を死なせてしまった作戦というものの罪と、参加した人(特攻隊員)は罪がないというのをごっちゃにしているんです!
 
竜次:確かに。
 
町山:あれは意図的ですよ。明らかに意図的なプロパガンダであって、それ言ったら何にでも通じちゃうから! 
 
竜次:そうですね!
 
町山:何でも言えますよ。そういう問題じゃなくて、それはまさしく無辜の市民である、まったく罪のない特攻隊員たちをあれだけ死なせた日本政府はおかしいというのが普通の考え方であって、そうじゃなくて、(『永遠の0』では)あの特攻隊員たちは何の罪もなかったんだから特攻は間違ってないというのは…。
 
竜次:ソレとコレとは違うと。
 
町山:ぜんっ然違うから! 逆ですよ! 逆だよお前!…ってことですよね。それは多分、おそらく意図的にやっていますよ。混同させようとしているんですよ。
 
竜次:今回のこと(『永遠の0』の大ヒット)が一過性のものだと思えなくて、沖縄の場合ですと、今井正監督の『ひめゆりの塔』という良い作品がありますが、一方で新東宝の映画で『太平洋戦争と姫ゆり部隊』というトンデモない映画があって、実際に見て愕然としたんですけど(笑)。
 
LA BATTAGLIA DI OKINAWA町山:はいはいはい(笑)。
 
竜次:ラストは史実と違う話になってしまうと(笑)。
 
町山:いつもそうですよ、新東宝は(笑)。
 
竜次:やっぱり(笑)。
 
町山:そういう会社です。
 
竜次:そういう意味では面白かったんですけど(笑)。


▲『太平洋戦争と姫ゆり部隊』(1962年)
  イタリア版ポスター

 
町山:だってあれですよ。『明治天皇と日露大戦争』とかめちゃくちゃですよ。全然ワケ分かんないですよ(笑)。:あれ確か大ヒットしたんですよ。日本映画史上最大の動員を稼いでいますよ。明治天皇と日露大戦争』は。(観客は)それが見たいんですよ…!
 
竜次:見たいんですか(笑)。meijitennou_to_nichiro_daisensou
 
町山:だって、「あなた偉いあなた偉いあなた偉い〜」ってやるんですもの。
 
竜次:なるほど! それを観客は求めていると。
 
町山:そうですよ。だってあんなの太鼓持ちじゃないですか。最低ですよ。
 
竜次:だから今回だけじゃないと思うんですよ。今後ますます増えそうなのが目に見えるというか。
 
 
町山: 要するにまあ、日本というのは第二次世界大戦という他国民に対しても自国民に対してもまったくその、酷いことをしてしまったじゃないですか。それっていう のはずーっと重荷として背負ってきたわけじゃないですか。そしたら、それをさ、ちょっとでもいいから「大したことないよ、悪くない悪くないよ!」ってやっ たら、ふーっと良い気持ちになるじゃないですか。それって太鼓持ちだもん! 
 
竜次:確かに(笑)。
 
町山:おれ、ほんとだったら「太鼓持ち」よりもっと酷い言い方しますが、言いませんけど(笑)。
 
竜次:言わないんですか(笑)。
 
町山:ハッキリ言うと「ケツ舐め野郎」ですから! わははははは。
 
竜次:(大爆笑)
 
町山: でも、それをやったら駄目なんですよ。芸術でもないしジャーナリズムでもないし、表現行為としてまったくおかしなことで、それは商売だから。それは完全な 商売だから。それを商売でないかのように見せるというのは良くないです。それはちゃんと商売としてやって欲しいですよね。それはすごく狡い。でもそれはア メリカでも同じだから。
 
竜次:アメリカでも?
 
町山:まったく同じです。『國民の創世』でもそうですよ。『風と共に去りぬ』もそう。
 
竜次:「これだから日本は」ということじゃないんですね。
 
町山:全然違う。
 
竜次:世界中どこでもそうなんですね。


「映画は客の欲望を拾うメディアだ」
 
町山:どこでもそういうことはあるんです。それこそインドネシアでその、大虐殺をやっていますけど、あれ、『アクト・オブ・キリング』という映画でインドネシアにおける共産党大虐殺っていうのは、初めてドキュメンタリー作られてますけど、その裏に何十本もの「共産党員は悪魔である」って映画が大量に作られてるんですね。インドネシアでは。
 
竜次:なるほど。
 
町山:で、ホラー映画として作られてるんですよ。
 
竜次:ホラー!?
 
町山:「共産党員が人を殺しに来るぞー!」みたいな感じで作られてる(笑)。
 
竜次:ははは! ジェイソンみたいな感じ。
 
町山:そうそう(笑)。
 
竜次:とんでもないですね(笑)。
 
町山:そうそうそう(笑)。
 
竜次:映画が完全に利用されてる。
 
町山:ていうか、作ってる側はあんまり政治的意識がないんですね。共産党員ってものはよくわからないんだけども、よくわからない人殺し集団って思ってるものに乗っかってるだけなんですよね。で、殺された人のほとんどは実際共産党とも何の関係もない人たちなんですよね。
 
竜次:貧しい農民だったり、中国系の方だったり。
 
町山: そうそうそう。何の関係もないんですよね。でもそういうものなんで、映画っていうのはすごく怖い、その、映画に限らないですけど、雑誌もメディアもなんで もそうですけども、普通の人たちの、そのなんというか欲望みたいなものを拾おうとすると幾らでも拾えるんです。「“はい! 奴隷制度は悪くなかったです よ!”って映画作れば当たるなあ、よし作ろう!」…やろうと思えば幾らでもできるんです。
 
竜次:客が求めていれば。
 
町山:客が求めていれば幾らでもできる。「太平洋戦争悪くなかった! 悪くなかった!」って映画作れば客が入るのは分かっていることですよ。でもそれは、意図的にやるのは本当によくないことですよね。
 
竜次:グリフィスはそこら辺で悩んで悩んで…。
 
町山:グリフィスは分かんなかったんですよ。で、その結果に驚いておののいたんですよ。
 
竜次:それで悩み続けてる。
 
町山:悩み続けてるっていうか、『國民の創世』で大金持ちになったんですよ、彼は。ものすごい大金持ちになったんだけど、その次に『イントレランス』って映画で、その差別を批判する映画を作って一文無しになったんですけど、彼はたぶんほっとしたと思いますよ。
 
竜次:ある意味(笑)。
 
町山:すごくホッとしたと思います。悪いことして稼いだお金だから綺麗になったと思って(笑)。
 
竜次:あははは! 贖罪みたいな。
 
町山:そう! 贖罪みたいなもん。スーッとしたと思いますよ。おそらくはね(笑)。はい。